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オージェ電子分光法(AES)の原理・特徴

 (AES:Auger Electron Spectroscopy)

 
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 固体表面に電子線を照射するとオージェ遷移過程によってオージェ電子が放出される。


オージェ電子分光法の原理


 AESは、このオージェ電子のエネルギー分布を測定し、元素の同定、定量を行う方法である。励起源として電子線を用いることから、微細に絞れるため微小領域の分析に優れている。また、電子線は容易に走査させることが可能なため2次元の情報を得ることも可能であり(イメージング)、点分析の他に線分析、面分析などが行える。

主な特徴としては、

  • オージェ電子の物質内での移動可能距離が短いことから、極表面(数nm)の情報が得られる。

  • 微小領域(〜サブミクロン)の測定ができる。

  • イオンエッチングを併用することで、注目元素の深さ方向分布、線分布、面分布が容易に得られる。

  • 化学状態についての情報を得ることもできる。

  • SEM像を同時に得ることができるので表面形状も観察できる。

などがあげられる。

 ただし、超高真空中での測定が必要なため、液体や気体は測定できない。また、オージェ過程が3電子過程であることからH、Heの分析はできず、電子線ダメージが懸念される材料や、絶縁物の測定は工夫が必要である。

 励起源となる電子線は、数kV〜数十kV程度のエネルギーで試料に照射されることになり、数nmに絞られている。ただし、試料に到達した電子は散乱過程などを経て、加速電圧にもよるが試料内部ではミクロンオーダーの拡がりを持った領域に拡散することになる。


電子散乱模式図


 ただし、放出されるオージェ電子は励起電子に比べてエネルギーが小さいために試料内でミクロンオーダーに及ぶような長距離の移動はできず、数nmで減衰してしまう。オージェ電子がこのような特徴を持っているために、AESで極表面の微小部分析を行うことが可能になるのである。
 このように、散乱領域が形成されるために、金属酸化物などの絶縁性の膜であっても、膜厚が十分に薄ければ(散乱領域よりも薄い)下層の金属領域との間に導通路が形成されるために測定が可能となる場合もある。したがって、加速電圧をうまく調整してやることによって、チャージアップの影響を軽減できる可能性もあるということになる。

 また、チャージアップについては、従来は基本的に絶縁物は測定できなかったが、最近になってフローティング型中和銃を装備した装置も開発されていることから測定可能なケースも増えてきている。また、試料を傾斜させることによって励起電子の必要以上の進入を抑制することでチャージアップを軽減する方法もある。ただし、いずれにしてもXPSなどに比べると帯電中和は難しく、テクニックや経験も必要となる。

 試料によっては、測定対象箇所は導体であっても基板が絶縁物であったり、完全絶縁体ではないが高抵抗な材料という場合も少なからずある。このような試料は、そのままの状態で測定した場合、チャージアップの影響で良いスペクトルが得られないケースがある。原因は、当然ながら試料ステージと測定点の間で導通が確保できてないことによる。
 このような場合、何らかの方法で測定箇所や、試料表面と試料ステージとの間の導通を確保することで問題が解決することがある。例えば、グラファイトペーストや導電性のテープ類で導通路を形成することである。そして、この場合測定場所と導通路との距離ができるだけ短くなるのように行うことがポイント(コツ)である。ただし、言うまでもなく試料を汚染しないようにすることは必須である。

サンプリング例


 AESもXPSと同様に極表面分析であることから、試料の取り扱いには細心の注意が必要である。たとえば、油性マジックなどで試料名などを書いたり、一般的なポリエチレン製のチャック袋に入れたりするだけで致命的な問題となる。まちがっても、埃が付いたからといって息を吹きかけるようなことはしてはならない。また、試料を固定するために一般用途の両面テープを使用するなどあってはならないことである。

 また、AESにおいてもXPSと同様に組成分析、定量評価を行うことが可能である。方法は同様に、感度因子を用いることになる。ただし、AESにおけるオージェピークは、XPSにおけるコアピークに比べて形状が複雑であり、且つ、化学状態の影響をより強く受けることが多い。そのため、定量を行う場合には対象元素の化学状態にも注意しつつ、XPSよりも慎重に行う必要がある。

 前述のように、AESにおけるオージェピークはXPSにおけるコアピークに比べて元素の化学状態の違いによるスペクトル形状の変化がより顕著、すなわち、敏感なことがある。したがって、この特徴を利用することによって、XPSよりも詳細な化学状態分析が可能となるケースも少なくない。

 ただし、オージェピークは元々がピークがガウシアンなどの関数で近似できない複雑な形状であり、さらに、化学状態によるピーク形状の変化もXPSのピークシフトではなく、ピーク形状そのもの変化として現れることも多い。そのため、解析は容易なことではなく、標準試料なども用いた詳細な測定やより複雑な数学的解析が必要となる。


  • 帰属、化学状態が分からない
    目的に合った測定条件が分からない
    サンプリングの方法が分からない
    きれいなスペクトルが取れない

    こんな時はJRLにご相談ください

 また、XPSのように有機物の化学状態解析は得意ではなく、無機物、特に金属酸化物の状態解析などが主な用途となる。このような理由から、AESは原理的には化学状態に敏感なこともあるが、一般に化学状態解析に用いられていないと言える。ただし、合金化しているかどうかの判断など、他の分析手法、特に微小部や特定部位を評価できる分析手法では難しい情報も得ることができるので、特徴を上手く利用して使い分けることが重要になる。


 また、SEM像と組成像が同時に対応した位置関係で得られることから、異物や特定形状部位などの組成分析において非常に有効な分析手段であると言える。異物分析では、サンプリングなどの方法を用いることもあるが、周辺部位を同時にサンプリングしたり、対象部位以外をサンプリングしてしまう懸念が常に付きまとうことになる。加えて、サンプリングでは原理上対象物を破壊せざるを得ないという問題がある。しかし、AESのように位置を同時確認できる手法では、そのような懸念はなく分析を行うことができる。最近では、8インチウェーハなどの大きな試料もそのままで試料室に導入できる装置もあることから、その応用範囲は広がっている。

 測定においては、試料ダメージという点において注意を払う必要がある。一般的には、AESは非破壊分析として分類されているが、XPSなどに比べると特に有機物などに対するダメージは大きいと言える。これは、XPSに比べて励起源として照射される電子線のエネルギーが強度、量共に多いためであるといえる。電気伝導性を有する無機物については、ほとんどダメージは無いと言えるが、有機物など一部については深刻なダメージを与える場合があるので注意しなければならない。ただし、無機物においても酸化状態の変化などの影響を受けることもある。

 代表的な用途としては、金属、半導体など導体を中心に、特に半田や触媒など合金材料を対象とした応用が数多く行われている。これらの材料に対して、組成分析、異物分析、汚染分析などに加えて、合金などの無機化合物の状態解析について、微小部分析、深さ方向分析、分布分析などが行われている。

 ただし、合金などの複合成分材料に対して、深さ方向分析を行う時には注意が必要になる。通常深さ方向分析では、アルゴンイオンエッチングなどが用いられるが、エッチング速度が元素や組成によって変化することがある。このような現象は、通常選択エッチングなどと呼ばれるが、選択エッチングが起きるとイオンエッチングによって組成が変化してしまうことになり、正確な分析を行うことができなくなってしまう。
 また、均一組成であっても元素によってエッチング速度が異なるため、膜厚などを計算する場合には注意しなければならない。イオンエッチングを用いてこれらの問題に対応するためには、基本的には組成や膜厚が既知の標準試料を用いて補正を行う必要がある。または、AESの高い空間分解能を利用して、断面加工を施して、線分析や面分析を行う方法も有効である。ただし、この場合断面加工時に測定面を汚染しないように気を付けなければならないことは言うまでもない。

 また、イオンエッチングを使用する場合にはもう一つ注意しなければならないことがある。それは、無機物をエッチングするときに、結晶方位などの影響によって試料表面が凸凹に荒れる現象が起きることがある点である。荒れのオーダーは材料によっても異なるが、エッチングが重ねられるにしたがって荒れが増大する傾向にあり、特にAESのような微小部分析においては測定箇所が凸部か凹部かによって結果が大きく影響されることになる。

 このような現象が起きる原因の一つは、エッチングが垂直方向から行われるのではなく、装置設計上どうしても一定の斜め方向から行われることによる。したがって、このような表面の荒れを防ぐ一つの方法として、エッチング中に試料を回転させることで異方性を軽減して、荒れを抑制する方法が用いられることがある。ただし、回転させることによって測定位置が移動するので、回転終了後に完全にもとの位置に戻すか、測定位置をズレに合わせて移動するなどの対応をしなければならない。



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