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トラブル・不良分析 形態観察

 
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 ここでいう形態観察は、文字通り対象物の形、特に表面などの外見上の形状を観察することである。現在、形態観察の方法には様々なものが選択可能であるが、それらの中でも最も簡便で、意図するか否かにはかかわらず最初に実行されるのが、肉眼による観察、「目視」である。ほとんどの方は、形態観察というとSEMSPMなどを最初に思い浮かべるであろう。このように目視をいわゆる機器分析と同列に並べることに違和感を覚える方も少なくないと想像される。肉眼の観察倍率はもちろん1倍であり、この点からは得られる情報は非常に限定的なものであるというのが多くの認識であろう。

 しかし、人間の目は想像に以上に多くの情報を与えてくれる非常に優れた分析プローブであるといえる。そして、分析の必要性を生む多くのきっかけは肉眼が与えているというのも紛れもない事実である。例えば、材料の劣化等に伴う変色において人の目は非常に高感度な検出器と言える。特に、色情報形態情報の両方を同時に得ることができるという点では非常に高性能な検出器であると言える。また、色だけではなく、立体的な位置情報や人の空間認識能力、質感などの感覚的情報も損なうことなく取得できる。確かに、定量的な議論は困難であるが、目は一般に認識されている以上に高性能であり、目視観察は非常に重要な形態観察の一つであると言っても過言ではない。

 そして、光学顕微鏡類を用いた光学観察は、この目視の延長線上にあり、目視の利点を損なうことなく高性能化する分析法である。今も主流である従来の光学顕微鏡は、光学系を通して肉眼で観察するタイプであったが、最近ではCCDカメラを通して観察する方式が主流になりつつある。CCDタイプの利点は、画像処理技術が応用できる点にある。肉眼もダイナミックレンジの非常に広い検出器であるが、それでも限界はある。そんな時に画像処理や検出器(CCD)の電気的制御によってハレーションなどを軽減して、明るい部分と暗い部分を同時に画像化できる能力は大きな武器と言える。

 さらに、オートステージと連携させることによって、立体像やプロファイルを得ることも可能である。もちろん、計測などその他の画像処理技術も当然ながら適用可能である点は多くの情報を与えてくれるものである。また、観察倍率も1000倍を超えて、3000倍や5000倍といったレンズシステムも実用化されているので、従来は得ることができなかった情報も比較的容易に知ることができるようになってきている。

 光学顕微鏡と同様に形態観察の代表的方法として用いられているのが、走査型電子顕微鏡(SEM)である。SEMの最も大きな特徴は、やはりその観察倍率にあると言える。実用化されているとは言え、1000倍を超える高倍観察においては、実際には焦点深度などいくつかの面で制限が生じる光学顕微鏡とは異なり、SEMでは、5000倍や10000倍程度はそれほど苦労することなく実現できる。もちろん、10万倍を超えるような超高倍率での観察も実用域であると言える。

 形態観察の倍率だけを見れば、原子像を見ることができるSPMの方が高性能であるとも言えるが、SEMの場合には高倍率側だけでなく、数十倍といった低倍率での観察もほぼシームレスに行える点は非常に有効である。特に、観察部位が決まっている場合には、マクロサイズの試料の中からいきなり高倍率でその部位を探し出すのは至難の業であるといえる。そのような場合に、低倍率から徐々に高倍率へと移行できるSEMは大きな威力を発揮する。

 また、微小部観察において注意しなければならないことに特異点観察の問題がある。特異点を観察することが目的である場合にはもちろん問題ないのであるが、高倍率で微小部だけを観察して解析を行った場合、試料の全体像とはかけ離れた、極論すれば、その一点だけの意味の無い情報だけを取り込んでしまう懸念がある。そのようなときにも、低倍率での観察を平行して実施することで、全体像を確認しながら微小部の詳細な情報を解析することが可能となる。

 このように、SEMは形態観察においては非常に有効な分析方法であるといえるが、当然ながら万能というわけではなく、いくつかの制限や注意すべきこともある。例えば、原理上色情報を得ることはできない。また、凹凸の存在は当然ながら知ることができるが、どうしても平面的な像となることも手伝って、凸部と凹部の判別が困難な傾向にある。ただし、最近では極座標解析によって異なる観察角度の像から立体像を構築する方法も開発されている。

 ただし、加速電圧によって検出深さが変化することから、同じ試料であってもまったく異なる像を与えることもあるので注意が必要である。また、通常は真空中で測定することから、水分を含んだ試料などでは蒸発によって形状が変わってしまうこともある。ただし、この点については、低真空モードの開発など意欲的な装置開発も実用化されているので、今後益々重要な分析手法の一つになると言える。

 観察倍率という面では、前述のSPMが最も有力な分析手法の一つであると言える。SPMは、周知の通り原子レベルに到達する観察倍率を有する(ここでは、話の流れ上倍率という言葉を用いているが、通常は空間分解能という表現の方が適している)。SPMがこれほどまでに利用される至った背景は、もちろん、この観察能力によるところが大きいが、この他にも、様々な観察モードの開発によって表面形態と様々な物性との同時観察が可能な点が挙げられる。例えば、磁気力や摩擦力、硬さなど、様々な物性に関する情報を得ることができる。このように多様な観察モード以外にも、観察雰囲気の多様性も重要な要素となっている。大気中での観察はもちろんのこと、真空中や液中での観察も可能であり、原子像から生体試料まで極めて広範囲に観察が可能である。そして、XYZの3方向に対して定量的な情報を得ることができる点も忘れてはならない。また、最近の事例では、原子像のみならず、高分子化合物の化学結合の可視化にも成功している。

 このように、SPMは非常に強力な観察手段であるが、他の手法と同様に万能と言うわけではない。特に注意しなければならないのは、探針の不良や劣化に起因する観察像へのアーティファクトの混入である。また、アーティファクトの混入には探針だけではなく、静電気なども影響する。得られた像の妥当性の判断にはある程度の熟練も要し、少なくとも疑念を感じた場合には迷わず再測定を行うことが重要である。ただし、何らかの理由で同じ場所を再測定する場合には、1回目の測定によるダメージ等の影響の可能性もあるので注意が必要である。また、高倍率は特異とするが、低倍での観察は難しいことから目的とする観察場所の特定が難しいことが考えられ、当然ながら、特異点を観察してしまうという可能性にも注意を払う必要がある。

 厳密には異なるものであるが、SPMと似た形態観察方法として触針式表面粗さ計が挙げられる。文字通り、鋭利な針を試料表面に直接触れさせながらその形状を取得するものである。当然ながらSPMに比べると空間分解能は劣ることになるが、逆にmmオーダー以上の広い領域の形状を定量的に評価できるという特徴を持つ。ただし、プローブが試料表面上に直接触れながら測定することから、ダメージを与える可能性があることはもちろん、粘着性のある試料では上手く測定できないことがある。

 非接触型で、試料にダメージを与えない方法の代表的なものとして、レーザー顕微鏡があげられる。レーザー顕微鏡では、通常の結像光学系とは異なり、結像位置にピンホールを設置して、そこを通過する光量を解析することでフォーカス位置の特定を行い、3D像化する。光を照射するだけであることから、試料へのダメージ無く測定することができ、定量的な解析を行うことも可能である。ただし、原理的に光の反射を利用していることから、透明な試料など正常な反射光を得ることができない試料は上手く測定できないことがある。

 ここでは、一般的に用いられることが多い代表的な形態観察の方法だけを例として取り上げているが、共通することはそれぞれの長所・短所を理解した上で目的に応じて適した方法を選択しなければならないことである。この点は、他の分析においても同じことが言えるが、形態観察は他の方法に比べて簡便であることが多く、また、ついつい観察倍率と得られる情報量を直接的にリンクしてしまうことが多いのでより注意が必要である。

 やはり、形態観察においても何のために分析するのかという「目的」を明確にして、そこから必要な情報を特定し、それをもとにして方法を選択することが重要である。冒頭で敢えて目視観察を持ち出した背景には、機械的に評価を行うのではなく、ゼロベースで進めていくことが重要であると言う意味も込めている。いずれにしても、形態観察はその簡便さとは反対に、想像以上に多くの情報を与えてくれ、その後の分析方針を決めるための重要な役割を担いうる強力な武器になることを再認識して欲しいところである。


 

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