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トラブル・不良分析 深さ方向分析

 
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 工業技術の発達と社会的要求に伴って、様々な製品が開発され、それに合わせた材料やプロセスの開発が行われている。使用される材料には、金属等に代表される無機物や、高分子に代表される有機物などがあり、それらの中にも多種多様なものがある。そして、これらの材料は単体で使用されることももちろん多いが、要求の高度化に伴って、単体で使用するのではなく、CFRP(Carbon FiberReinforced Plastics)などのようにその性能を相補するような異種材料と組み合わせた複合材料、ハイブリッド材料としての使用も検討されている。

 また、その機能向上や用途範囲拡大のための一つの方法として、表面改質処理や添加剤の使用など様々な方法も検討されている。例えば、表面改質では、プラズマ処理、UV光やレーザーを用いた光処理、酸やアルカリなどを用いたウェット処理など様々方法が研究されている。また、添加剤では帯電防止剤や滑剤、UV劣化を低減するためのUV吸収剤など様々ものの使用が検討されている。

 そして、これらの方法を検討することにおいては、極表面の情報はもちろんのこと、深さ方向の構造情報も重要なものとなる。例えば、表面改質においては、多くの場合基材の構造を破壊することになるので、必要以上の構造破壊を誘起しないために適切な処理方法や処理条件を見出す必要がある。そして、この処理方法の選択や条件の最適化においては処理の到達深さや深さ方向の構造変化に関する情報を得ることは必要不可欠なものである。

 また、添加剤を加えた系においては、多くのケースで添加剤が不均一に分散することが見られる。最も一般的なものは、表面へのブリードアウト現象である。これは、表面自由エネルギーの効果や相分離などによって、添加剤などの特定成分が表面に偏析してしまう現象である。添加剤の代表的なものである、塩化ビニル樹脂におけるフタル酸エステル系可塑剤や帯電防止剤などは表面に偏析しやすいものの一つである。そのため、添加剤による所望の効能を発揮するためには、これらの材料内での分布、特に表面近傍の分布を知ることは材料開発を行う上で重要なこととなる。

 そして、半導体産業においても多くの薄膜や積層薄膜が使用されており、深さ方向構造情報がプロセス開発を行う上では極めて重要なものとなっている。例えば、リソグラフィープロセスで使用されるフォトレジストがある。リソグラフィープロセスでは、光照射によってフォトレジストの構造を変化させることによって微細なパターンを形成しており、最新プロセスではパターン幅は100nm以下となっている。そして、フォトレジストは、主構造となる高分子に光酸発生剤や界面活性剤など様々な添加剤が使用されているが、パターン形成に利用する構造変化は僅かな添加剤の分布の違いにも大きな影響を受ける。そのため、僅かなパターンの乱れも許されないリソグラフィープロセスの開発においては、添加剤やレジスト構造の深さ方向分布がきわめて重要なものとなっている。また、これら以外にも材料の耐久性に関与する劣化挙動の解析や表面汚染の解析など多くの場面で深さ方向の構造情報は重要な役割を担う。

 このような背景から、深さ方向構造解析は、材料開発、プロセス開発等を行う上では必須技術の一つであると言える。しかし、一口に深さ方向分析と言っても、その方法は多種多様なものがあり、それぞれに長所短所、適不適があり、その選択は容易なものとは言えない。そして、代表的な深さ方向分析の多くは破壊分析であることから、選択を間違えると必要な情報を得ることができないばかりでなく、貴重な試料を失ってしまう可能性もある。そこで、本項では深さ方向のおける注意点など実際に分析を実施する場合に重要となる点を中心に解説する。

 深さ方向分析を大別すると、XPSやFTIRなどにおける角度変化測定に代表される非破壊的方法と、イオンエッチングや断面分析などに代表される破壊的方法に分類される。

 非破壊的方法は、一般的にはいわゆる角度変化測定と呼ばれる方法で実現され、測定プローブとなるビームの入射角や検出角度を変化させることによって測定(検出)深さを変化させて、深さ方向分析を実施するというものである。

 これは、通常検出深さとして定義されるものは、励起源となるプローブビームの侵入深さ、または、これによって発生した被検出種(例えば、光や電子など)の脱出可能深さのどちらか値の小さい方によって決まることを利用している。すなわち、ビームの入射角や、発生種の検出角度を変化させることで、試料内での道程を長くすることができれば、検出深さを浅くすることが可能になる。

 例えば、表面分析手法の代表的手法の一つであるXPSの場合、図に示す模式図のような原理で検出深さを変えることになる。XPSにおける測定は、X線の照射とそれに伴う光電子の放出およびその光電子の検出で実現される。したがって、検出深さはX線の進入深さと光電子の脱出可能深さの小さい方によって決定される。そして、光電子の脱出可能深さは試料中での電子の平均自由行程によって決まり、この場合、X線の進入深さは電子の平均自由行程に比べて十分に長いため、一般にはXPSの検出深さはこの電子の平均自由行程で定義される。

 したがって、図に示すように検出角度を変えることで試料内での光電子の道程を変化させることができる。そして、検出角度を小さくすることによって、より深い領域で発生した光電子は試料表面から脱出するまでの行程が長くなるために検出されなくなる。この原理を利用して、検出角度を適当な角度に調整することによって検出深さを変化させることが可能となる。



 また、同様にFTIR−ATRにおいても、光の入射角を変化させることによってエバネッセント波の侵入深さを変化させることができることを利用して、検出深さを変化させることができる。

 このような角度変化法と総称される方法の特徴は、一般に試料を非破壊で分析することができるという特徴を持っている。しかし、その測定原理上、測定に用いる手法の最大検出深さを超えた深い領域の情報を得ることは不可能であるという制限がある。また、深さ方向のデータ数についても測定精度上の制限等もあり、通常は多くても数点程度分に相当する角度変化測定条件でしか実験を行えない。加えて、検出可能深さ領域においても深い領域に対応する測定条件で得た情報は、より浅い領域の情報も含んだものであるため、深さ方向変化を正確に知るためにはこれらの情報を分離するために極めて複雑な解析を行わなければならない。具体的には、スペクトルシミュレーションを用いるなどでより真の結果に近い深さ方向プロファイルを得ることになる。しかし、仮にそのような複雑な解析を行ったとしても得られる結果にはある程度の任意性が含まれるという問題もある。このような理由から、角度変化測定による深さ方向構造解析は、限られた範囲での限定的な情報を与えるものとしては利用されているが、より詳細な情報が必要な場合には必ずしも適した方法とはいえない。

 これに代わる二つ目の方法は、標準的な表面分析法とイオンエッチングなどを組み合わせた破壊的方法である。すわなち、最表面を測定後、イオンエッチングなどの何らかの手段によって適当な厚み分の試料を除去することで現れた新たな表面を分析し、その後、イオンエッチングを行うというサイクルを繰り返すことで実現する深さ方向分析法である。ここで用いられるイオンエッチングは、一般にはアルゴンなどを用いたものが主流であり、この他にもウェットエッチングを用いた方法や機械的に削り取る方法なども使用されている。

 この方法では、先の角度変化測定を用いた方法とは異なり、使用する表面分析手法の検出深さを越えた深い領域の情報を得ることが可能になるという特徴がある。そして、深さ方向の分解能は、エッチングの間隔と使用する表面分析手法の検出深さによって決まることになる。データ解釈の点においても、角度変化測定のような複雑な解析を行うことなく、得られたデータからほぼ直接的に深さ方向変化の情報を得ることができる。以上の点においては、角度変化測定に比べてエッチングを用いた方法がより一般的であるということができる。

 そして、深さ方向分析を行う場合には、通常はSIMSのように分析行為そのものが深さ方向分析である手法を用いるか、XPSなどの表面分析手法とイオンエッチングを併用することで行われてきた。しかし、このようなイオンエッチングを用いた深さ方向分析を有機物に対して適用する場合には注意が必要である。

 イオンエッチングでは、その原理上試料に対して高エネルギーを照射することになる。したがって、ポリマーに代表される有機物においては、測定中に試料の化学構造が破壊されてしまうという重大な問題が発生してしまう。このため、少なくともイオンエッチングを用いた方法では有機物の正確な深さ方向構造解析を行うことは事実上不可能であると言える。仮に実施した場合でも、通常は元素情報が得られる程度であり、構造情報が得られてとしても限定的で僅かなものであるといえる。

 また、化学構造破壊以外にも、選択エッチングやマイグレーションと呼ばれる問題のため無機物においても注意が必要になる。選択エッチングとは、イオンエッチングを用いた場合、特定の成分(元素)が選択的に早くエッチングされてしまうために元素組成情報すらも測定中に変化してしまうという問題である。また、マイグレーションは、例えばアルカリ金属などのように比較的動きやすい成分が存在する場合にはエネルギー照射によって測定中に組成変化を起こしてしまうという問題である。

 また、これらとは全く異なる深さ方向分析の手段として、エッチングではなく機械的な加工によって試料表面を順次研磨によって除去しながら表面分析を行うという方法がある。研磨では、研磨ペーパーや研磨剤等を用いて試料表面を削り取り、それによって新たに露出した表面を分析することになる。しかし、この方法にはいくつかの問題が存在する。研磨ペーパーを用いる方法は比較的容易に実施することができるという利点もあるが、研磨粒による表面荒れがどうしても発生してしまう。深さ方向分析の原理上、表面に荒れが存在した場合、一般には深さ方向分解能をこの表面荒れ以上に高くすることは困難である。もしも、表面荒れを超えて深さ方向分解能を上げるとするならば、空間分解能をこの表面荒れよりも高くする必要がある。しかし、微小部の深さ方向分析は位置精度や安定性において課題も多く、また、局所分析となるために特異点を選んでしまう懸念もある。加えて、研磨ペーパーから脱落した研磨粒や研磨粉による汚染も懸念される。このような点から、研磨による方法は制限や懸念点が多いために、他の方法が使用できないのような状況であるなど、限定的な場面で使用されることが多い。

 また、もっと単純に切断や研磨などの何らかの方法で断面を作成することによって深さ方向分析を行うという方法も多く行われている。この方法では、イオンエッチングと同様に複雑な解析などは必要なく、直接的に深さ方向情報を得ることができるという利点がある。加えて、横方向(表面から見れば空間方向)の情報も得られるため、特異点を分析してしまうという可能性も低くできる。ただし、その原理上分析に用いる手法の空間分解能と深さ方向分解能は直結しているので、適用可能な手法、空間分解能などの手法の制限、必要な情報と得られる情報の関係などのバランスを取ることは難しいことが多い。

 深さ方向分析を行うにあたっては、ここで解説したようなそれぞれの方法の特徴を十分に踏まえた上で、必要な情報、対象とする試料の種類、サイズ等の制限などを考慮して進めていく必要がある。


 

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