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トラブル・不良分析 表面・界面分析
表面や界面の物性については、接着、剥離のところで少し述べていますが、現代のおいてはほとんどありとあらゆることに関与する最も重要なものの一つとなっています。
例えば、前述の接着や剥離に関しては表面汚染などの存在はもちろんのこと、表面の組成や化学構造が極めて重要な役割を果たすことは改めて説明するまでもありません。また、メッキや電気回路の形成などもある種の接着の一種ですが、その性能を大きく左右するものとして表面や界面があげられます。さらには、撥水性や防汚性などといった機能の発現にも重要な役割を担っています。この他にもあげ始めればきりがないほどに表面・界面は今日あらゆることに関与する重要なものとなっています。
また、表面と一口に言っても目的や対象によってその定義は大きく異なってきます。例えば、下図に示すように、1原子層、1分子層といったオングストロームオーダーから、nm、ミクロンオーダーはもちろんんこと、場合によっては、mmオーダーも表面と表現とする世界もあります。そのため、表面分析にはこれら様々な対象にも対応することが望まれてきました。
したがって、当然ながら表面や界面の組成や物性について詳細に知りたいという要求が様々な分野で強く存在します。そして、その要求に応えるかのように様々な表面分析の方法が開発されています。しかし、表面分析にはバルク分析などには独特の難しさが存在していることがあまり理解されておらず、間違った表面分析の使い方、間違った結果の解釈が行われていることも少ないのが現実です。
例えば、前述のように表面分析に分類されるものは極めて多種多様な分析手法が存在します。下表では、代表的な表面分析に分類される分析手法とその特徴などを示しています。
一見すると、数多くの分析法が存在するということは便利なように感じられます。確かに、その通りではあるのですが、別の側面から見れば、それほどたくさんある選択肢の中から最適なものを選び出す必要がある事が忘れられていることが多いのです。特に、表面分析のように様々な分析方法がある場合には、類似した分析方法というものも出てきます。そのような場合は特に、その類似した中でそれぞれの特徴と自分の目的とを照らし合わせて適切な選択をすることが必要になってきます。
対象とする表面の領域(深さ)、必要な情報(元素組成、化学構造、形状など)、検出感度、測定領域の面積などを予め明確に定めた上でそれぞれの分析方法の特徴を踏まえて選択していなければなりません。また、対象物が有機物か無機物か、言い換えるなら、導体か不導体かでその選択に制限が出てきます。これらのことについて、十分に検討した上で分析方法を選択し、実験を開始しなければ、必要な情報が得られないばかりか、場合によっては誤った情報を元に判断を下してしまう恐れすらあります。
もちろん、最初の段階では対象とする深さや必要な情報がどんなものであるのか、確定できないことも少なからずあるでしょう。しかし、そのような場合にこそ別項でも述べているように、ゴールの設定と仮説の構築、そして、実験フローの検討が重要になるのです。分析とは、そのほとんどは仮説の検証のために行われるものです。したがって、仮説無しに分析を行ってもそこから重要な情報を得ることはできません。
さて、では実際にはどのように考えていけば良いのでしょうか。
最近、様々な製品で使われている機能に抗菌性というものがあります。これらの製品の多くは、抗菌性能を有する様々な物質を基材に混合することで実現しています。そして、ここで重要なことはそれらの抗菌成分が十分に表面に露出していることであるといえます。いくら抗菌成分を原料として用いても、それらが表面に露出していなければ十分に機能しないことは容易に想像できるでしょう。したがって、原料やプロセスなどの開発段階はもちろんのこと、期待通りに抗菌性能が発揮されないなどのトラブルにおいても、表面分析が非常に重要な情報を与えてくれることになります。
ここで、抗菌性を発現するための物質には大別すると無機系と有機系の2種が挙げられます。前者は、銀や銅に代表される抗菌性を有する金属の微粒子(現在であればナノ粒子も用いられているでしょう)やこれらの有機金属化合物などを混合する方法です。これらについて前述の情報を与えてくれると期待できる分析手法は、無機系成分を検出可能な分析方法である必要があります。また、後者の有機系であれば、組成だけでなく化学構造に関する情報を与えるような分析法を選択する必要があります。そして、深さについては、極表層が重要な役割を担うことはもちろんですが、細菌類等は内部に浸透して害を及ぼすこともあるので、ある程度の深さまでの情報を無視することは適切ではないと考えられます。
また、目的が添加した抗菌成分の表面偏析の評価であればこれらの組成・構造分析系の方法の選択が優先されますが、抗菌性能が十分に発揮されないなどの原因究明の場合にはこれだけに絞り込むのは不適切なことが考えられます。例えば、表面形状がミクロな凹凸を有していれば表面積が増大し、細菌類の着床を促進してしまう可能性が考えられます。また、内部浸透については、微細なひび割れの存在や、密度なども影響してくる可能性があります。こういった意味から、形態観察手法やバルク分析手法も補助的情報を与えてくれるものとして、選択候補の中に含めておくのが良いでしょう。
さらには、別のメカニズムとして、偏析と露出の関係があります。例えば、EPMAやATRなどによって表面近傍に意図したとおり抗菌成分が偏析していることが確認されたとします。しかし、実際に実験してみると十分な抗菌性能が発揮されないことが分かりました。この原因について、考える場合、一つの仮説としてマクロには表面に抗菌成分が偏析しているが、偏析した抗菌成分が露出していない(基材によって覆われている)という可能性が考えられます。多くの場合、抗菌成分は直接接触によってその効果を発揮するので、基材によって覆われている場合にはいくら表面近傍に偏析していてもその効果は限定されると考えられます。この仮説を検証するとするならば、さらに最表面に敏感なXPSやTOF-SIMSなどをもちいて分析することになります。逆に、XPSで先に分析を行った場合、その結果だけで表面に抗菌成分が偏析していないと結論付けるのは適切ではないといえます。前述のように、表面には偏析しているが、最表面は基材で覆われている可能性が考えられるからです。この場合にはもちろん、EPMAやATRなどのもう少し深い領域までの平均情報が得られる分析方法による検討を考える必要があります。このとき、早計に表面偏析が起きていないと結論してしまい、原料やプロセスの再検討などを行ってしまえば、問題の解決に至らないか、不必要な時間とコストを費やしてしまう可能性があります。
このように、分析方法の適切な選択とそのための仮説の構築は実験をスムーズに進めて着実にゴールに到達するためには極めて重要なことになるのです。
ここまで、主に表面について述べてきましたが、界面もその定義からも分かるとおり、基本的には表面分析を中心に解析を進めることになります。しかし、表面と界面ではその難易度も含めて大きく異なります。それは、表面は分析対象となる領域が露出しているのに対して、界面は文字通り二つの物質の間であることから基本的に露出していません。
表面分析はその性格上、露出面を評価するための分析法ですから、原理的にそのままでは界面を評価することはできません。しかし、だからといって安易に強制剥離などを行って剥離面を分析をするという方法はほとんどの場合適切ではない。その理由には様々なものがあるが、例えば、想定している界面と剥離面が同一のものであるという保証はどこにもなく、別途確かめる必要があります。また、剥離が二層の界面で起きたとしても、剥離した瞬間に剥離面は、界面ではなく表面に変化するということがほとんどの場合無視されています。例えば、前述の表面(界面)自由エネルギーなどの作用によるバランスによって界面は形成されているので、剥離した瞬間にその平衡は崩れてしまい、新たに大気との間のバランスによって表面が形成されることになります。したがって、必ずしも元の界面を分析しているとは限らないのです。
このように、界面の分析は非常にデリケートであり、難易度高い分析であるということを理解した上で進めていくことが極めて重要になります。
また、別項(分析用試料の準備)でも若干触れていますが、表面分析用の試料はバルク分析用途は異なり、細心の注意を払って取り扱う必要があります。最も注意が必要なことは、試料の汚染です。例えば、XPSやTOF−SIMSのような数nmというような分析方法を用いて、極表面領域を分析するような場合、試料を素手で触ってしまったり、清浄ではない環境に試料を晒すということは絶対に避けなければなりません。素手で触った場合には、当然ながら皮膚からの分泌物や手についている汚れが転写して表面を汚染します。そして、その汚染は容易にミクロンオーダーの厚さとなることから、そのような試料を極表面分析したとしても汚染だけを観察することになってしまいます。また、素手触れることはなくとも、人の息が吹きかかる、工場などでミストや浮遊成分が存在するような環境におかれても、容易にXPSやTOF-SIMSの測定深さを超えるような汚染が発生してしまいます。
このような点についても、表面分析を行う場合には注意しなければなりません。
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