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フーリエ変換赤外分光法(FTIR)の原理・特徴(状態・高次構造解析)
(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)
赤外分光法が極めて構造敏感であることは別項で述べた通りである。しかし、この特徴は化学構造そのものだけではなく、状態や高次構造の違いに対しても言える。すなわち、同じ分子であっても置かれている環境(温度や周囲の状況等)から生じる状態(液体、固体、気体等)の違いや、高次構造(結晶等)の違いによって、赤外スペクトルが変化する。これにより、物質の状態分析や高次構造解析を行うことができる。
比較的わかりやすい例を挙げると、身近な水について液体と水蒸気では下図のように全く異なるスペクトルとなる。これは、液体の水は分子同士の距離が近いために分子同士が強い相互作用をしているため分子運動が束縛されると同時に、連続的な相互作用分布を持つことによる。このため、液体状態では連続的な振動状態が生じて、気体では独立していた振動モード(ピーク)が連続的となって一つのピークとなっている。これに対して、水蒸気ではその束縛が弱いことから本来の振動モードは独立して存在することが可能なため、液体のスペクトルでは埋もれていた振動モード(回転モード等)が発現していることによる。
このような状態の違いだけでなく、結晶と非晶の区別をすることも赤外分光法では可能である。結晶性の判別には、パッキングの違いによる振動状態の変化を観察することや、結晶や非晶にに特有の高次構造に由来する吸収ピークを指標とする方法などがある。一般的には、構造均一性の点から結晶構造の方がピークはシャープであり、非晶状態は逆にブロードなる傾向がある。また、結晶-非晶特有構造の場合には、高分子であればいわゆるラメラ構造形成に伴うシス構造とトランス構造などのコンフォメーションによる判別などが挙げられる。赤外分光法では、このようなシス−トランスといったコンフォメーションの違いも編別することができる。
また、高次構造については結晶性だけでなく、偏光を用いることで配向解析を行うことも可能である。
こういった化学結合に由来するものだけでなく、水素結合などの物理結合に関する情報も得ることができる。水素結合そのものに関する情報を赤外分光法で直接得ることは困難であるが、FTIRでは水素結合の有無や強さによるOH基やNH基などの水素結合を形成する化学結合の状態変化(結合距離や結合角度)を振動モードの変化として観察することで、水素結合に関する情報を得ることができる。水素結合に関する情報を得ることができる分析手法は実はそれほど多くなく、赤外分光法のような自由度の高い簡便な分析手法が用いられることは非常に有効なことである。
FTIRは、このように測定上だけでなく、得られる情報においても他の分析法では得られない様々な情報が含まれているという強力な分析手法であるが当然ながら苦手とするものもある。例えば、C-Cなどの主鎖そのものや無機物については、官能基ほどの情報を得ることは難しい。これらの情報を必要とする場合には同じ分光分析であるラマンやXPS等の手法を用いることになる。
いずれにしても、赤外分光法がこれほど簡便で自由度が高く、多くの情報が得られる分析手法という点で極めて重要であることは間違いない。解析の難しさなどもあるが、その特徴を理解して活用することが技術分野においては必要不可欠である。
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