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飛行時間型2次イオン質量分析(TOF-SIMS)の原理・特徴

 (TOF-SIMS:Time-Of-Flight SIMS)

 
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 二次イオン質量分析(SIMS)の一種であるが、質量分析計、1次イオンソース、測定条件が異なることから、その特徴は大きく異なる。質量分析計は、飛行時間型(TOF型)と呼ばれ、引き出し電場によって引き出された2次イオンが、グリッドと検出器の間のドリフト空間(無電場空間)を一定速度で飛行した後検出される。そして、この時の飛行速度が、2次イオンの質量によって異なり、軽いものほど早く、重いものほど遅いことを利用して、検出器への到達時間の違いによって質量分析を行う。

 

TOFーSIMS原理図


 TOF-SIMSの特徴としては、質量分析の持つ高い感度に加えて、他の一般的な質量分析法に比べて格段に高い質量分解能を持っていることがあげられる。そして、他の質量分析法の通常検出質量範囲が数百程度なのに対して、原理的には検出可能質量数に上限がないことがあげられる。特に、分子量数千を超える高分子も検出できる点は大きな特徴である。また、一次イオンのドーズ量が通常のSIMSに比べて少ないことから、ほとんどエッチングはされず、また、フラグメンテーションも起こしにくいという特徴を持つ。

 TOF-SIMSの特徴の一つである高い質量分解能は、他の質量分析法(セクター型、Q-MS型)が磁場や電場によって検出対象の振り分けを行っているのに対して、純粋に時間だけで振り分けを行っていることによる。電場や磁場による操作では、制御精度に限界があるために、高分解能な測定は困難になる。原理的には、セクター型や磁場型であっても質量分解能をあげることもできるが、その場合、質量分析器自体のサイズが巨大なものになってしまうという問題がある。これは、電場や磁場によって対象イオンの飛行軌道をコントロールして、ターゲットとする質量数のものだけを検出器に導き、他のものは検出範囲外にはじき出すためである。すなわち、近い質量数を持つものは近い軌道を描くために、それらを振り分けるためには長い距離が必要になるのである。

 この点については、TOF-SIMSにおいても、飛行経路は長い方が分離には有利であると言える。しかし、TOF-SIMSにおける分離は、検出器の時間分解能だけで決まることから、一般的な装置サイズで高い質量分解能を実現することができるのである。

 もう一つのTOF-SIMSの特徴である高質量数にわたる検出範囲は、飛行時間型質量分析計の原理に由来する。すなわち、他の質量分析法は、ターゲットとする質量数を持つイオンの飛行軌道を正確にコントロールして検出器に導く必要がある。これに対して、飛行時間型質量分析法では、ターゲットイオンは一定エネルギーで加速するだけであり、検出範囲の上限は原理上どこまで遅い(長い時間)成分まで検出するかだけによる。この特徴によって、TOF-SIMSでは他の質量分析法に比べて格段に広い検出範囲を実現している。

 この特徴は、一般的な無機物の分析においてはそれほどの威力は発揮しないが、有機物、特に高分子の分析を行う時には極めて有効なものとなる。有機物は、通常イオン化過程でフラグメンテーションを起こす。そして、フラグメンテーションによって小さな質量数成分が多数形成され、その形成パターンによって同定を行うことができる。しかし、フラグメントイオンの情報だけでは、何系の化合物であるということは解析できても、元の分子を同定することは困難である。すなわち、


D-SIMS(従来型SIMS)

元の構造

検出されるフラグメント

AB

A+B

ABAB

A+B

  

となり、両者の判別ができないことになる。
 しかし、

TOF-SIMS

元の構造

検出されるフラグメント

AB

AB+A+B

ABAB

ABAB+AB+A+B

  

 となることから、高質量数側まで測定が可能であり、ABやABABという親イオンを検出することができれば両者を判別することができるのである。

 そして、有機物を分析するときに有効なもう一つの特徴として、前述のフラグメンテーションを起こしにくいということがあげられる。通常のD-SIMSで有機物を分析した場合、用いる一次イオンの影響でフラグメンテーションからさらに分解が起きてしまい、通常元素情報しか得ることができない。有機物の同定において、元素情報も重要ではあるが、それだけでは詳細な解析は困難である。

 これに対して、TOF-SIMSは適度(マイルド)にフラグメンテーションが起きるために、元の構造を反映した様々なフラグメントイオンが生成される。もちろん、親イオンもその一つである。したがって、末端官能基や、側鎖・分岐情報など有機物の同定において重要な様々な情報を得ることができる。また、これらの特徴を活かしたたんぱく質などの生体材料分野への応用も精力的に行われている。さらに、有機物だけでなく無機分野においても、錯体や触媒などの解析にも用いられる。
 
 この特徴を利用して、複雑な有機化合物のフラグメントイオンに対しても同定を行うことができ、元の化合物を推定することが可能となる。

 一般的なイオンエッチングではアルゴンが、通常のD-SIMSでは一次イオンとして酸素やセシウムが用いられているのに対して、TOF-SIMSではフラグメンテーションのコントロールために従来Gaが用いられてきた。これらに対して、この特徴をさらに活かす目的で、よりマイルドなフラグメンテーションを起こす1次イオン種として、重い元素を用いた装置が開発されている。具体的には、金やビスマスが用いられている。これらの重い元素を1次イオンとして用いることで、フラグメンテーションが抑制されて高質量数側の2次イオン発生確率が高くなる。ただし、逆に低質量数側の発生確率が相対的に下がる傾向を持つことから、従来のGaを一次イオンとした測定と併用することによって、より詳細な有機物の同定解析が可能となる。また最近では、二価イオンを用いることで、さらにフラグメンテーションを制御して新たな情報を得ることも検討されている。


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 このように、従来の分析装置にはない多くの特徴をTOF-SIMSであるが、定量分析についてはあまり得意としていない。これは、元の構造によってイオン化率が異なり、さらに、フラグメンテーションのパターンも変化することから、イオン強度だけから定量評価をすることは困難なためである。ただし、ほぼ同一組成であれば、試料間での相対比較は可能であり、面分析における測定位置間での評価なども可能である。また、原理的には標準試料さえあれば検量線を用いて定量評価を行うことも可能ではある。


 TOF-SIMSでは、一次イオンのドーズ量が少ないことからほとんどエッチングされないため、表面分析として分類されており、通常のD-SIMSのようなデプスプロファイルではなく、表面付着物などの微量成分分析に用いられることが多い。TOF-SIMSの検出深さは、一般的には1〜2nm程度といわれており、XPS以上に表面感度の高い手法であるともいえる。そのため、高感度であること、有機物の定性ができることも加わり、汚染分析の分野において幅広く利用されている。

 ただし、極表面分析であることから、試料の取り扱いには十分な注意が必要である。たとえば、油性マジックなどで試料名などを書いたり、一般的なポリエチレン製のチャック袋に入れたりするだけで致命的な問題となる。まちがっても、埃が付いたからといって息を吹きかけるようなことはしてはならない。また、試料を固定するために一般用途の両面テープを使用するなどあってはならないことである。場合によっては、クリーンブースの利用なども考えることが有効である。

 また、通常検出はイメージングプレートを用いて行われることから、例えば下図のように面分析が容易に行える。この例は、PETフィルムに強いUV光を照射して光劣化させることによって形成された酸化劣化成分に由来するフラグメントのイメージング測定の結果である。網目状になっているのは、UV光を照射するときにマスクとして使用したメッシュのパターンに由来するものである。このように、TOF-SIMSでは容易にイメージング解析を行うことが可能である。

 空間分解能は、通常実用値として1ミクロン程度と言われており、一次イオンの集光と、イメージングプレートの物理分解能で決まる。また、最近になって二価イオンを一次イオンとできる装置が開発されており、一価イオンを用いた場合に比べて集光効率が上がることからさらに空間分解能が高くなり、空間分解能はサブミクロンに到達している。また、微小領域だけでなくcmオーダーの比較的広範囲な面分析が行えることも特徴の一つと言える。このように、面分析を高感度で行え、有機物の同定に有効であることから、TOF-SIMSは汚染成分の分布解析や、微量添加剤の分布解析などにおいても幅広く活用されている。

 前述のように、TOF-SIMSは表面分析として使用されることが多いが、もちろん、他のエッチングソースを併用することでデプスプロファイルも可能である。特に、他の質量分析法などが苦手とする高質量数側の測定が必要なときには有効な方法と言える。ただし、当然ながら有機物の構造同定は困難になることは言うまでもない。



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